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2007年11月 8日 (木)

論理力と説得力は違う

説得力とは、論理力と似て非なるものである。

 だからディベート形式の討論トレーニングで、いくら論理力を鍛えても、説得力とは結び付かない。それどころか、むしろ邪魔になる。

説得力は論理能力の高さに非ず!

 私は論理力のあるほうだと自負しているが、この能力のために説得に失敗したことのほうが多い。

「あなたの言っていることがいかに筋違いか、私がこれから証明しましょう」などとやり合って、うまくいったためしがないのである。議論で勝ったところで、なんの解決にもならない。特に夫婦間ではそうだ。

 これが米国人同士であれば違うのだろう。ディベートで侃々諤々やり合っても後腐れのない風土があるからだ。だが、ここは日本。

 完膚なきまでに言い負かされた後で、「オレの負けだ。お前の言うとおりだった。これからはなんでも協力しよう」という精神風土ではない。

 論理は現実を動かす力にはなりにくいのである。

 それに、ディベート形式のトレーニングばかり積むと、相手の発言の本質をとらえる努力をせずに、あら探しばかりするようになる。また、ディベートでは往々にして、立場を変えていかようにでも議論できることを求める。しかし、自分の価値基準を離れて論理構成をするという習慣を身につけるのは決して好ましくない。

説得力が必要とされるケースとは、自分と相手の価値基準が異なるときである。このとき論理力に頼ると、双方の価値基準の対決のようになってしまい、相手を否定することで自分を認めさせる構図になる。

 そうではなく、説得とは相手の基準に、もう一つこちらの基準を加えてもらうことと考えるべきだろう。一方的に自分を認めさせるのではなく、自分も相手の価値基準を認めており、自分の主張はあなたの価値基準を壊すことにはならないということを折に触れ伝え続ける。そのうえで、自分が得意としている価値基準を相手にも持ってもらう。それが“ウィン―ウィン”の関係だ。

「相談を持ちかける技術」が
説得力を鍛える

 要するに、説得力とは「コミュニケーション力」なのである。コミュニケーションとは、情報を単に伝達することではない。「意味」や「感情」をやり取りする行為である。いわゆる“できるヤツ”“魅力的なヤツ”の、人との接し方をよく観察するといい。相手とただ情報交換するのではなく、感情面での共感を培い、その信頼関係を武器にしていることがわかる。

 その意味でも、自己アピールのみに満ちた説得は、決して功を奏さない。むしろ「どういう事情で自分は困っているのか」という、“相談”のかたちを借りた説得のテクニックが重要だ。

 私は、コミュニケーション学の講義やビジネスセミナーで「相談を持ちかける」トレーニングを必ず行なっている。

 上手に相談を持ちかけるというのは、かなり高度なコミュニケーション術だ。能力の高い人ほど、すべて自力でやり「どんなもんだ」と自慢したがる。だが、いくら結果が良好でも、周りにとっては寝耳に水で、「独走して勝手にやりやがって」と悪く言われるものだ。また、プロ意識の高い人ほど、困っているところを見せられないという心理が働き、誰にも相談できないという事態に陥る。

齋藤孝が伝授する「説得力」の極意

 じつは「相談を持ちかける」というのは「相談に乗る」よりずっと難しい。ある程度の経験さえあれば、相談に答えるのは簡単だ。しかし、相談を持ちかけるという技術は、歳を追うほどに下手になる。若い頃はうまい下手以前に、いつも相談を持ちかけてばかりである。ところが30~40代になると心も体も固くなり、特に若い人に対して上手に相談を持ちかけられなくなる。

 つい見逃しがちだが、業務を遂行するうえで、上司から部下への説得はかなり重要である。若い部下に対しては命令すればすむというわけではない。心の底から納得してくれれば、それがモチベーションになり、仕事の質につながっていくものだ。また、自分の弱点や今の状況を上手に相手に提供できる人は、上司、部下、お客に対して、同情を買うかたちで“共犯関係”になれる。つまり、「この問題を聞いたからには自分としては助けなければ」と相手を巻き込むことができる。このように相談と説得力には密接な関係がある。

 ただし、本当に大変な問題をあからさまに相談されると相手も困る。

「そんなことをいきなりオレに言われても無理だよ」と。だからこそ、なぜ私があなたの目の前に来ることになったのか、経緯と状況説明を簡略にしつつ、AかBかの判断で悩んでいるといった、具体的でポイントを絞った持ちかけが必要だ。相談するときは、これまでの経緯といった“文脈”を説明しなければならない。

「文脈力」を高めるには
図式化が効果的だ

 コミュニケーションに「文脈力」が重要なのは言うまでもない。文脈力とは、自分の発言に脈絡と一貫性があるか、相手と噛み合っているかという、文脈を的確につかまえる能力のことだ。

 相手を説得するというのは文脈を共有することでもある。文脈が共有されると相互理解の基盤ができる。そうすると、少なくとも「ルール上はダメだが、気持ちはわかる」とか「評価はできないが、そうなってしまった経緯はわかる」といった譲歩を引き出すことができる。とりわけ、クレーム処理の際には効果絶大だ。

相手と共通の土俵をつくる技術としては、相手とのあいだに紙を置いて、図化しながら話す「マッピング・コミュニケーション」をお勧めしたい。

 これは、私が10代からやっていたテクニックだ。

 ただ話しているだけだと、言葉=思考は宙に舞う。だから思考の過程を地図のように紙に書き留める。こうすると、同じ話を繰り返さないし、感情面での行き違いもかなり克服できる。相手の顔を正面に見ながら、言葉だけで議論すると人格の戦いになってしまうが、90度のポジションに座り紙の上で議論すると、チームとして共に戦ったという関係になれる。

 また、文脈力を鍛えるという点では、「質問力」も重要である。相手の話の文脈を理解し、自分の文脈とクロスさせ、話を活性化させていくのが「質問」である。質問を聞けば、相手の理解度も見えてくる。逆に相手の質問に答える「コメント力」とともに、これを鍛えることが説得力ある話し方の近道でもある。

説得力の裏づけは
確かなビジョンとデータだ!

 さて、1対1の議論のほかに説得力が必要とされる場面として「自分のプロジェクトや企画に対し、相手をその気にさせる」というケースもある。新しい画期的な企画を思いつき、それを世に出していこうと考えたとき、周りの人を説得し、巻き込むことができるか否かは重要な問題である。

 2004年、明治大学に「情報コミュニケーション学部」という学部が新設されたが、当初は他の名前が有力候補だった。その名前を聞いたとき、私はそのオヤジ臭いネーミングセンスに閉口し、知り合いの女子高教師に頼んで、勝手に女子高でアンケートを取ってみた。そうすると、案の定“受
け”が悪い。「そんな名前では、受験生である女子高生は反応しない。その点、情報コミュニケーション学部なら受験生が増えそうだ」と、数字を基に説明した。

ここで大事なのは、自分でデータを集めたというところだ。

 説得力を、その場の言葉のうまさだけでとらえるのは現実的ではない。相手も社会人なら、言葉のうまさだけでだまされるはずがない。ならば、実績を見せるべきなのだ。ミニチュア版でいいから試行してみる。ただし、そのときは身銭を切ること。「自費で、そこまでやっちゃったの」ということが説得力につながる。

 説得力に欠かせないのは、きちんとしたビジョンと準備である。

 私が“スーパー小学校”の設立構想を語ると、特に企業経営者などには受けがいい。その背景には、私が実際に1年生から6年生まで300人以上の小学生を、私塾で教えているという現実がある。机上の教育理論だけで「ちょっとやってみたいんだよね」と言っている、ただの大学教授ではないのである。本当にやりたいことの準備版を、すでに行動に移していることが説得力になるのだと思う。

 その点では、話すときの印象も大事だ。当人が自信と希望に溢れ、太陽のように輝いていないと説得力はない。また、その計画に酔っているのではなく、情報分析はできていて、ロマンで動いているという姿勢を見せなければならない。ロマンというのは“夢見がち”という意味ではなく、私利私欲で動いているのではないという意味だ。新しいものを世に出し、この世の中を変えたい、会社を活性化したいという、パブリックな志で動いている人には協力したくなる。

 そのためには当人がワクワクしていないとダメ。私がCMで肩胛骨をぐるぐる回しているのは、なにかが自分の中にわき上がっているという意味。噴水や温泉、石油がわき出ているイメージ。

 こういう動きを常にやっていると、どんどん力がわいてくるのである。

http://diamond.jp/feature/persuation_dw/10001/?page=5

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