旅行・地域

2007年10月27日 (土)

日本人の知らないロシアの今

 2007年9月、私は日本から60名の経営者とともに、ロシアを訪れました。経営者達はロシアの状況を目の当たりにして驚いていました。

「大前さん、日本ではこんなこと、どこにも報道されていないじゃないですか」

 彼らの言うとおりです。我々が理解しているロシアは現実に存在するロシアとは異なっているのです。37年前、私は初めてロシアを訪れました。以来、ずっと通い続けていますが、つくづく日本はロシアを理解していないと感じます。その点、アメリカ企業は違います。

 アメリカには難易度の高い技術に関して、ロシアに研究開発部門を置いている企業が多くあります。

半導体メーカーのインテル(Intel)は、ロシアにおよそ3000人の研究者を抱えています。この数はアメリカにいるインテルの技術者の数と同じなのです。もともとロシアは、小さいメモリのなかにロジックを詰め込む技術に長けていました。そのことを知っていた共同創業者のアンドルー・グローヴはエリツィンが大統領に就いていた頃、大量の技術者を採用しました。

 インテルだけではありません。ボーイングも1500人の開発研究者をロシアで雇用しています。こちらもアメリカとほぼ同数です。ボーイングの旅客機のなかには、ロシアで基幹部分が設計されたものもあります。

 もともとロシアにはツポレフやイリューシンといった航空機に関する優れた技術を持った企業があります。技術力は高いのですが、なかには業績の芳しくない会社も見られます。ボーイングはそのような企業に目をつけ、優秀な技術者を採用しました。ロシアを観察し、ロシアを知ることで、インテルやボーイングといったアメリカ企業はより高い技術を手中に車も売れています。ロシアで最も業績の良い企業にロルフという会社があります。自動車ディーラーで、年率158%の伸びを見せています。どこの車を売っているのかというと、実は三菱自動車です。今年、ロシアでの三菱自動車の売上は日本国内の売上を抜くといわれています。平均30%のプレミアムが付くほど、ロシアでは三菱の車が売れているのです。

 ロシア人が三菱車を求める背景には、ダカール・ラリー(パリ・ダカ)が影響しています。これは世界で一番過酷なモータースポーツ競技として知られ、三菱自動車は2001年以降2007年までの現在、総合優勝7連覇を果たしています。

 ロシアはモスクワを一歩出ると、パリ・ダカのコースのような状態の悪い道が続きます。舗装されている道は少なく、たとえ舗装されていたとしても穴があいていることも珍しくありません。土埃が舞い上がるような道もたくさんあります。

 三菱自動車の車は、パリ・ダカで優勝したことで悪路に強いことが証明されました。ロシアの整備されていない道にも負けない車として、ロシア人は三菱自動車の車を求めるようになりました彼は何をしたのでしょうか。ひと言でいうと税制改革――フラットタックスの導入です。プーチンは所得税の累進性をなくしました。税率を一律13%に設定し、年収が1億円ある人も、収入が100万円しかない人にも全員同じ税率を適用するように制定しました。納める税金の額は人によって大きな差が出ます。しかし、フラットタックスにしたことで、結果的に各自の可処分所得は増えることになりました。

 ロシア人には老後に備えるという感覚がありません。これも購買力を強めることを後押ししています。彼らには年金は不要なのです。なぜなら、定年が62歳のところ、男性の平均寿命が57歳だからです。老後の心配をして貯金をしてもあまり意味がないのです。

 しかも、ロシア人は過去にハイパーインフレを経験しています。お金の価値が短期間で急激に下がり、預けたお金を銀行に踏み倒されるような思いを何度か味わいました。銀行に預けるお金があるのなら、物を買ったほうが良いと考えるのも自然なことなのでしょう。

http://diamond.jp/series/omae_speach/3/?page=3